TV台本との違い≪字幕版との大いなる差≫

翻訳者にとって、吹替えの一番の魅力は、

もとの台詞が見る側に聞こえないってことだ。
だから何を、どう日本語でしゃべらせてもかまわない、直訳しようが意訳しようが、誤訳しようがどうせわかンないンだから知ったこっちゃねえやー。

 

なーんてことはないが、とにかく字幕とくらべて制限が大幅に緩和されているのがいい。制限あるとすれば、俳優の口パクに声優の台詞を何とか合わせてやることぐらいだ。

  
まず字幕の制限がない。

一行10文字、計二行の世界でヒーヒーいってる身からすれば、

これはもう天国快楽といわずしてなんといおう。
やれ常用漢字だ、いや当用漢字だと文字使いで頭を悩ますこともない。

実にノビノビ、自由ホンポーに仕事ができる。

  
テレビの翻訳料は字幕スーパーのそれより実は多少安いのだが、

それを除けば、これはなかなか楽しい仕事なのだ。

  

だが、欠点もある。

吹替え版てやつはいっさいがっさい、画面に流れている台詞・発声は、

すべて日本語に直さないといけない。二人同時にしゃべってれば二人の台詞を、

そのバックにラジオかテレビのアナウンスが流れていればそれも訳し、

声優さんに話してもらう。ここは関係ないからいいやーではすまされぬ。

これが大変な作業になる。

 

  

本文は菊地浩司が20数年前に「プレイコミック」という漫画雑誌に映画翻訳家の舞台裏をコラムとして掲載していた時のものです。本文に一部適切ではない表現がございますことをご了承ください。

TV台本との違い≪字幕版と吹替え版≫

「ウチのカミさんがねー」と、ヨレヨレのコートを着た風采のあがらない中年男がつぶやく。ちょっと古いが、ご存知、テレビ『刑事コロンボ』の名台詞だ。

原文は“My wife”か“My old-woman”かはたまた名前で呼んでいるのか分からない。吹替え番組だから、もとの英語が聞こえないからだ。

 
日本は面白い国で、テレビの洋画は圧倒的に吹替え版だが、劇場映画は99%が字幕スーパーになっている。ちなみに、ドイツでは映画館でもほとんどが吹替えでフランスでも大抵は吹替え版か吹替えと字幕版の並映である。

 
公用語が四つもあるベルギーでは、日常的にはフランス語とフラマン語という、

まったく異なる二つの言語が使われていて(!!)、

アメリカ映画にはこの二つの言語の字幕が同時に画面に現れる。

今回はこの吹替え版てやつを少し見てみよう。
『刑事コロンボ』の「ウチのカミさんがね」が、

流行語にまでなった名訳をされたのは額田やえ子さん。

小柄で気さくで、ほんとにそこらのカミさんみたいな(?)人。

 
大体コロンボは小池朝雄のしゃべり口の名調子で人気者になったのだが、そのもとはといえば、

やはり日本語台本のうまさで、翻訳者・額田さんの面目躍如というところだ。

 
吹替え版は俳優がしゃべる台詞が観客に聞こえない。

声優さんが日本訳台本を俳優の口パクに合わせて、しゃべるのだが、

最近はテレビに二か国語放送なんてのがあって、これを同時に聞くと、

甘いセクシーな金髪女優の声が、女子高生的キンキン声になってたりしてガックリすることがある。

 
最近はスターによって日本の声の出演者も固定されたりしていて

ナマの声より吹替えの声の方がシックリくる、なんてケースも出てきたけど。

 

本文は菊地浩司が20数年前に「プレイコミック」という漫画雑誌に映画翻訳家の舞台裏をコラムとして掲載していた時のものです。本文に一部適切ではない表現がございますことをご了承ください。